2014年3月23日日曜日

クリミア住民投票の捉え方と今後の動静の検討

3月16日(日)、クリミア自治共和国にて住民投票が行われました。
1週間経ち情勢が落ち着いたので、あらましを振り返っておきたいと思います。

Q:クリミアってどこにあるの?


クリミアは、黒海(Black Sea)に突き出た半島にあります。
黒海はマルマラ海を経てエーゲ海(Aegean Sea)、地中海(Mediterranean Sea)に繋がっています。
Source:http://www.forbes.com/sites/gregsatell/2014/03/01/5-things-you-should-know-about-putins-incursion-into-crimea/

クリミアはロシアにとって軍事的に非常に重要な場所です。


地図のクリミア南南西部にSevastopolとあります。
ロシアはこの地に軍港を構えています。
現時点では、ロシアにとって唯一の不凍軍港です。
シリアのBashar Al Assad大統領を地中海から支援する際にも大いに活用されたようです。
The celebration of the Day of the naval forces in Sevastopol
Source:http://globaldiscussion.net/topic/6981-sevastopol-the-city-of-russian-mariners/

ロシアは、この地をウクライナから2047年まで租借しています。

このことは、2010年4月21日にロシアのメドベージェフ大統領とウクライナのヤヌコヴィッチ大統領との間で合意されました。
  • 以前の合意では、2017年に返還期限があったところ、これを30年間延長する。
  • ウクライナは見返りとして、ロシアからの天然ガスを30%割り引きで購入できる。
Source:http://edition.cnn.com/2010/WORLD/europe/04/21/russia.ukraine/index.html?hpt=T2


Q:今回の住民投票では何を決めたの?


クリミアの自治のあり方が問われました。
具体的には以下の2択に対して投票されました。
  • クリミア自治共和国をロシア連邦へ編入させることを支持する。
  • ウクライナへの帰属を決定した、1992年制定の憲法の効力復活を支持する。
source:http://ja.wikipedia.org/wiki/2014年クリミア住民投票

Q:結果はどうなったの?


ロシア連邦への編入支持が多数を占めました。
ロシア編入への賛成が96.77%、反対が2.51%で、無効票は0.72%でした。
また、投票率は83.1%でした。

クリミアはロシア人が半数以上を占め、その他にはウクライナ人やタタール人といった民族で構成されています。
ロシア編入への賛成比率は、投票率83.1% × 賛成支持率96.77% = 80.42%です。
ロシア人以外の民族もロシア編入を希望していることが読み取れます。
source:http://en.wikipedia.org/wiki/File:Distribution_of_ethnic_groups_in_Crimea_2001.png

Q:アメリカやEU(独、仏、英)などはこの投票を認めていないようだけど?


その通りです。
西側諸国(米独仏英)は、デモから始まったウクライナの政権交代を承認しています。
一方で、今回のクリミア住民投票の結果を「国際法違反」「(ウクライナのクリミアに対する)国家統治権の侵害」などとして承認していません。
23カ国から派遣された135人のオブザーバーが投票に違反のなかったことを認め、EODE(Eurasian Observatory for Democracy & Elections)という選挙管理団体が「住民投票は自由で公正に行われた」と結論づけたにも関わらず、です。

ここで思い出していただきたいのは、アメリカとロシアが昨今行ってきたことです。
アメリカはイラクに侵攻し、アフガン戦争を始め、シリア反政府軍の支援をし、エジプト軍部によるクーデターを支援してきました。
ロシアは化学兵器の保有で空爆されかけていたシリアに対して化学兵器を国連管理下に置くことを提案し、シリアと西側諸国との対立を仲裁、軍事衝突を回避させました。

国際法に従い住民投票を行ったと主張するロシアと、国際法違反と主張するアメリカ。
どちらの主張が信じるに足るでしょうか。

Q:アメリカは既にロシアに対して制裁をしているようだけど?


はい。その通りです。
ウクライナ・クリミアの一連の出来事に関わったと思われる以下のロシア高官たちに対して、アメリカへの渡航禁止とアメリカ国内の資産凍結措置を適用しています。

2014年3月16日に制裁が決定された人々:
Viktor Ozerov, Vladimir Dzhabarov, Evgeni Bushmin, Nikolai Ryzhkov, Sergei Zheleznyak, Sergei Mironov, Aleksandr Totoonov, Oleg Panteleev, Sergey Naryshkin, Victor Ivanov, Igor Sergun, Sergei Ivanov, Alexei Gromov, Andrei Fursenko, Vladimir Yakunin, and Vladimir Kozhin

2014年3月20日に追加で制裁が決定された人々と機関(ロシア銀行):
Gennady Timchenko, Arkady Rotenberg, Boris Rotenberg, Yuri Kovalchuk and Bank Rossiya

Source:http://www.treasury.gov/press-center/press-releases/Pages/jl23331.aspx

Q:戦争を危惧する声もあるようだけど?


はい。可能性はあります。
ただし、確率はそれほど高くないと思います。

今後は以下の3つのストーリーが起こりえると思われます。
  • ①ロシアvsウクライナで戦争が開始される。
  • ②ロシアvsウクライナの対立が膠着し、第2の冷戦状態に陥る。
  • ③シリアやイラン制裁の時と同様に、アメリカが急速に手を引く。

米・独・仏・英の"西側"陣営は、以下の理由により事の決着を急ぐ必要があります。
  • ウクライナでは2014年5月に選挙が行われる予定。
    次の選挙では、ロシア寄りの大統領が選出される可能性も考えられる。
  • ウクライナ財政は厳しい。
    1年以内に財政破綻する可能性も考えられる。

この背景の下、①のストーリーが展開されることがあるとすれば、以下のような流れになると思われます。
  • ウクライナ暫定政権中の極右政党などにより、クリミア住民の安全が脅かされる。
  • ロシアがクリミア住民保護のため、武力行使を行う。
  • 米欧は事の発端はどうあれ、ロシアを非難する。NATOによる武力行使を行う。

このストーリーを喜ぶのは、軍事産業で儲かる人たち、ロシア・イラン・シリア台頭で困るイスラエル、サウジアラビアでしょう。
ドルの基軸通貨性の側面からも、ドルの地位を一時的に高める効果はありそうです。
しかし、今までと同様にドルがリスクの退避先として選択されない可能性もあります。

このストーリーを喜ばないのは、アメリカ政府と国防省でしょう。
彼らは苦労してアフガニスタンやイラクからの撤退を進めてきました。
またアメリカ政府の軍事予算は2013年から2021年にかけて、比率を10%から8.5%にカットされる計画です。Source:http://en.wikipedia.org/wiki/Budget_sequestration_in_2013
これ以上の戦争は政治・経済的に歓迎ではないはずです。

②の「第2の冷戦膠着」ストーリーは起こりにくいと思われます。
先述の通り、今回の対立は長期戦に持ち込まれるほどウクライナ・西側諸国に不利だからです。

③の「アメリカ態度急変」ストーリーは最も起こりやすいと考えています。
アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスは決して一枚岩ではありません。
  • ドイツはロシアから資源を輸入し、ロシアに対して工業製品を輸出しています。
    「ノルド・ストリーム」の建設にも投資をしてきています。
    Source:http://www.nord-stream.com/about-us/our-shareholders/
  • イギリスはロシアの資金が「シティ」から引き上げられることを恐れています。
    Source:http://www.ft.com/intl/cms/s/0/38852d3e-a524-11e3-a7b4-00144feab7de.html?siteedition=intl#axzz2wm2Tmpvs
  • フランス政府とSTX社はロシアへ「強襲揚陸艦ミストラル」を2艘、約1600億円で売ろうとしていました。
    これが破談になると、ロシアから多額の違約金を請求されかねません。
    Source:http://www.presstv.ir/detail/2014/03/18/355197/russia-crimea-ukraine-referendum-gorbachev--sanctions-sovietera-error-obama--politics-imperialism-military-and-war-misinformation/

あまりウマミのない今回の一連の出来事に、独・仏・英の各国は巻き込まれているというのが実情ではないでしょうか。


編集後記


一連の顛末を追う中で感じたことは西側メディアの「プロパガンダ」色の強さでした。
プーチン大統領は悪いヤツ者だ、ロシアの行為は国際法違反だ、国家主権の侵害だ、等々。
日本のメディアもこれに同調する向きがあるようです。

これに対してロシア側はRT(Russia Today)から積極的に情報を発信していました。
当然、ロシア目線での書きぶりになっていると思われますが、
西側の情報一辺倒ではなく、ロシア側の情報発信力もかなり成長してきていることを感じました。

穿った見方ですが、今回の一連の出来事は
ロシアに対する通貨・経済的側面と情報操作の側面からの
壮大なストレステストであるかもしれないと考えました。
そしてロシアはこれまでのところ、順調にそのテストをクリアしています。

現在、中国では企業破綻が相次いで発生しています。
こちらもストレステストの始まりかもしれませんが、それについてはまた別の機会に譲ります。

今回も長々と書いてしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。
ご興味を持っていただけましたら、FacebookやTwitterでシェアしていただけると幸いです。




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