一問一答形式でアメリカの強さの源泉を振り返るととも、
アメリカ経済の現状について事実ベースで確認していきましょう。
アメリカの経済力はドルが基軸通貨であったことによって支えられていた
今のところ、アメリカの経済力は世界一です。
Q:経済力が世界一ってどういうこと?
A:GDP(国内総生産)が世界一、ということです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/国内総生産より
Q:なんで?
A:ドルが世界一強い通貨で、
借金し続けられる仕組みがあったから、だと思われます。
Q:世界一強い通貨ってどういうこと?
A:世界で一番人気がある、ということです。
下図は世界で流通している通貨の使用比率の推移です。
ドルが一貫して60%を超えています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Reserve_currency
言い方を換えれば、貿易などの支払いで一番よく使われる、ということです。
最も信頼されている通貨、ともいえます。
そういった状態の通貨を「基軸通貨」と呼んだりします。
ちなみにですが、ドルが基軸通貨になったのは第二次世界大戦後です。
それまではイギリスのポンドが基軸通貨でした。
Q:なんでドルが世界で一番人気があるの?
A:かつて人気があって、2014年の今はそれが衰えつつある、というのが実情でしょう。
人気の理由は2つあったと考えられます。
1つ目は、かつて多くの国の通貨が金本位制を採っていた時代に
アメリカが絶対的な量の金を持っていたから。
これで信頼を勝ち得ていました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Gold_reserveより
2つ目は、中東地域(特にサウジアラビア)で大量に産出される石油。
これを買うときの通貨はドルしかダメよ。
という暗黙のルールが守らせられていたから。
これで絶え間のないドルの需要を生じさせていました。
Q:アメリカがなぜ多くの金を保有することになったの?
A:それは、第一次、第二次世界大戦を通じて欧州が戦場となり疲弊していった代わりに
アメリカは戦争の特需で儲かったからです。
Q:アメリカがなぜサウジアラビアの石油決済をドルに固定できたの?
A:それは第二次世界大戦終了後の冷戦中に、共産勢力と対抗するという大義名分の下、
世界中に軍隊を派遣することができた国はアメリカだけでした。
その流れの中で、サウジアラビアにも軍事的支援を行って、
サウド家王政の維持する支援を行う代わりに、
石油はドルで決済することを約束させたからです。
また、サウジアラビアは世界に石油を売って得たドルでアメリカ国債を買う。
アメリカ政府は国債を発行して軍事予算を投入し、サウジアラビアを守る。
といった還流を生じさせていました。
この流れはアメリカが借金を続けられた理由の1つでもあります。
貿易・財政赤字でもアメリカ経済が破綻しなかったのはドルが基軸通貨であったから
Q:ドルが強いと何が嬉しいの?
A:海外の製品やサービスが安く買えます。
アメリカの経済力、つまりGDPの大きさを支える重要な要素は「消費」です。
各国の家計消費がGDPに占める割合(%)
http://data.worldbank.org/indicator/NE.CON.PETC.ZSより
Q:でもドルが強いって、ドル高ってことでしょ?
それって輸出産業にとっては不利なんじゃないの?
A:その通りです。
ここでアメリカ経済史を貿易、財政の観点で振り返ってみましょう。
輸出入のバランス、これを貿易収支と呼びますが、
アメリカは1970年代後半からほぼ一貫して貿易赤字です。
つまり、輸入額 > 輸出額 の関係がずっと続いているわけです。
下図は赤字幅を表しています。100 Billions USDは約10兆円です。
2012年度は約55兆円の赤字ですね。
Q:かつてアメリカ経済のニュースで「双子の赤字」といわれていたもの?
A:そうです。双子の一人です。
双子のもう一人は「財政赤字」です。
財政(ファイナンス、Finance)とは、
国(政府)が様々な形で集める税金による収入(歳入)と
国(政府)が使う支出(歳出)をバランスさせることをいいます。
財政赤字とは、支出 > 収入 となることをいいます。
家計と同じように考えれば分かりやすいですね。
稼ぐより多くを使ってしまっている状態です。
まずは2012年度のアメリカの収入(歳入、税金による収入)の内訳を見てみましょう。
合計額(Total)が2,449 Billion Dollarつまり、約250兆円です。
(Individual Income:個人から、Social Security&..:社会保障、社会保険から、Corporate :企業から)
これに対して、支出合計額(Total)は約350兆円です。
(Medicare&Medicaid:公的医療費、Social Security:社会保障費、生活保護費など
Defence Department:国防軍事費、Discretionary:自由裁量支出、
Other Mandatory:その他、Net Interest:国債の利子支払い)
支出が約350兆円で収入が約250兆円。なので、約100兆円の赤字ですね。
Q:貿易で赤字、財政も赤字。家計で考えたら成り立ちませんよね?
大量の貯金でもあって、それを取り崩してたわけ?
あ、最初にアメリカは大量の金(GOLD)を持っていたって言ってましたよね?
A:その通りです。
アメリカの増え続ける貿易赤字によって、
アメリカからは大量の金(GOLD)が流出しました。
そこで、ニクソン大統領は1971年に金・ドルの交換停止を宣言しました。
Q:そんな借金だらけになってるのに、なんでアメリカ経済は破綻しないの?
A:すぐにはアメリカ経済が破綻しない理由を以下に説明します。
その前に誤解がないように少し整理しておきましょう。
一般的に、破産(経済破綻、財政破綻)とは債務不履行をしてしまうことをいいます。
債務を履行する、とは簡単にいえば、借金を返済期日までに返していくこと。
債務が不履行になる、とは借金を返済期日までに返せないこと。
また、「アメリカが破産する」とは「アメリカ政府が破産する」ということです。
また、「アメリカ政府の借金」とは、アメリカ国債を買った人から得たお金のことです。
アメリカ政府は国債保有者に対して、
国債の満了時にその国債の額面+利子を付けて、借金を返済しなければなりません。
先に双子の赤字と言いましたが、ここで問題になるのは貿易赤字よりも
財政赤字の方です。(先ほど見た、約100兆円の赤字の方ですね。)
さて、ご質問の政府が財政赤字をなぜ続けられるかですが、
政府は借金返済額を上回る額の借金をして、それで返済をしています。
だから、先に述べた定義での「破産」をしないのです。
返済はできていますから。
ですので、国債を買い支えてくれている存在がある限り、アメリカの財政破綻はないでしょう。
ただし、あまり無茶な政策を続けて借金を増やし続けていると、国債の買い手がつかなくなります。
また、そのような無茶な政策をする国が発行する通貨はいずれ信用を失います。
現代の通貨の仕組みは通貨そのものに対する「信用」(credit、クレジット)で成り立っているため、
(従来は国家が保有する貴金属の「金」が裏付けていたのでしたね。)
この「信用」を失うことは、通貨にとっての死刑宣告に等しいといえるでしょう。
Q:通貨が「信用」を失うとどうなるの?
A:誰もその通貨を使って決済をしようとしなくなります。
通貨も商品と同じようなものだと考えると、需要のない通貨の価値は下がります。
ドルの価値が下がったとすると、いわゆる「ドル安」になります。
世界中の国から総スカンを喰らい、誰もドルを信用しなく(なり決済に使わなく)なると、
ドルは他のあらゆる通貨に対して「ドル安」になります。
そうなると輸入して仕入れている物資に多額のドルを支払うことになります。
アメリカは石油を外国から輸入しています。
ドル安になると石油の輸入により多くのドルを支払うことになり、
アメリカ国内の石油関連製品の値段が上がります。
石油など経済の基本となる物資の値段が上がるとインフレにつながります。
ところで先ほど触れた、「借金を新たに借金で返済する」という話、どこかで聞いた気がしますね。
そう、残念ながら日本も同じ状態にあります。
日本の場合、最近までは貿易黒字の財政赤字でした。
最近は中国からの輸出に押され、アメリカと同じ双子の赤字の状態です。
下図は日本の経常収支の推移です。
経常収支とは、所得収支+貿易収支+サービス収支+経常移転収支の総和です。
貿易収支(輸出額 − 輸入額)が2011年からほとんどの月で赤字に転落していますね。
2012年全体で約10兆円の貿易赤字です。
次の図は日本の財政収支の対GDP比率です。
日本の2013年の財政赤字額は、日本の2013年のGDPの約9%になっています。
日本の2013年のGDPはざっくり600兆円です。
よって、日本の財政赤字額はざっくり600兆円 X 0.09 = 54兆円程度になります。
額面ではアメリカより小額ですが、GDPという国家として稼ぐ力に対しては、
先進国中で最悪の赤字額を出していることが下図から分かりますね。
http://www.zaisei.mof.go.jp/pdf/4-1(メイン)財政赤字の国際比較.pdfより
ドルの基軸通貨性を支えてきた「信用」が揺らいでいる。
Q:そんな自転車操業な国の国債を誰が買うの?
A:今は、アメリカで中央銀行の役割を担っている、
FRB(Federal Reserve Board、連邦準備制度理事会)の保有額が一番です。
(政府機関を除く。FRBは政府機関ではありません。民間銀行、Private Bankです。)
下図はアメリカの負債総額1600兆円の債権者内訳を示した秀逸な図です。
http://markmartinezshow.blogspot.jp/2013_01_01_archive.htmlよりお借りしました。
真ん中のグラフの一番下にFederal Reserve 1,510B とありますね。
つまり、FRBが約150兆円の国債を保有している、ということです。
中国や日本がそれに拮抗していますね。
しかしこのグラフは2012年12月時点のものですので注意してください。
後で述べるQEによって2013年12月時点では約200兆円になっています。
さて、 かつてのアメリカ国債は自転車操業であっても、
・10年もの国債で利子が5%近く付いていた
・アメリカ国債は世界一安全な金融資産とされていた
などの理由で、それなりに人気があったのです。
しかし、2008年頃のサブプライム問題(アメリカ版の住宅バブルの崩壊)で
事態は一変します。
アメリカの中央銀行にあたる、FRBはサブプライム問題で
急激に冷え込んだ市場を温めるため、国債金利の引下げを実行します。
このFRBの一連の資金注入をQE(Quantitative Easing、量的緩和)と言います。
なぜ、この手だてが有効か。
それは、世界経済の中心でアメリカの国債金利は、
あらゆる金融商品の金利の基準となっており、国債金利を引き下げることで、
サブプライムローンの変動金利を引き下げ、 債務不履行になる個人を減らす効果と、
金融機関の貸し渋りを和らげる効果が期待できるからです。
すると、安全で金利が高いから人気だった米国債が売れにくくなります。
結果として、いまやFRBが民間で最も多くの国債を保有しています。
かつて、FRBが政府の借金である国債を直接買うことは禁じ手とされていました。
なぜなら、FRBが注入する「資金」は何の裏付けもなく発行できて、
そのために政府の借金癖が悪化する恐れがあるからです。
しかし、今は緊急事態だからということで、QEは2008年11月から始まって、
2014年1月の現在もまだ続けられています。
下図はFRBが保有する国債と住宅ローン債権の総額です。
実はQEでは国債だけでなく、焦げ付いた住宅ローン債権も買い取っています。
この図からは2013年末にFRBは約200兆円の国債を保有していることが分かりますね。
http://en.wikipedia.org/wiki/File:U.S._Federal_Reserve_-_Treasury_and_Mortgage-Backed_Securities_Held.pngより
こんな依存症状態は良くないから、早く止めるべきだ、と前々FRB議長のアラン・グリーンスパン氏などは述べています。
市場の心配も受けて、前FRB議長のベン・バーナンキ氏は
2013年12月に毎月の買い支え金額を約8.5兆円から、約7.5兆円に引き下げると宣言しました。
この買い支えペースを鈍化させることを「テーパリング(taperingまたはtaper)」と呼びます。
テーパリングの可能性が高まり始めた2013年5月から、米国債金利は急上昇しました。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG10YR%3AINDより
また2014年1月29日には、1月以降の買い支え額をさらに1兆円引き下げ、6.5兆円とすると発表しました。
Q:アメリカにとっては旗色がよくないね。
だからこのトピックのタイトルは「アメリカが世界一『だった』理由」と過去形なの?
A:そうです。
アメリカの借金が増えすぎていること、
それに伴って世界中に軍隊を派遣できなくなってきていること、
これらのことからアメリカの強さ、それを支えていたドルの強さ、借金を支える仕組み、
これらがともに弱まってきているのです。
アメリカの経済成長率を表す指標、GDP成長率が2013年10-12月期で3.2%と発表され、
世間ではアメリカ経済の見通しは明るい、といったような報道がなされています。
しかし、ここまで見てきた数値を使って、考え直してみましょう。
アメリカのGDPは約1,600兆円。
四半期で1,600兆円 ÷ 4の400兆円の価値を創出しているとします。
その3.2%が成長しているとすれば、400 × 0.032 = 12.8兆円です。
一方、FRBがQEによってアメリカ国債、住宅債券の買い支えに投入している金額は
2012年10-12月、2013年10月-12月の間、ともに毎月8.5兆円でした。
四半期は3ヶ月ですので、8.5兆円/1ヶ月 × 3ヶ月 = 25.5兆円 を投じていることになります。
1年経っても、現在進行形で資金を注入していても、
投入した資金以上の経済成長が得られていないことが分かります。
果たして本当にアメリカ経済は復活していると言えるのでしょうか。
今世界は、アメリカとともに沈んでいこうとしている国と、
アメリカから決別して次の世界経済を担おうとする国とに大別できます。
ともに沈みつつあるのは、イギリス、日本、イスラエルです。
決別しようとしているのは、BRICS、特に中国とロシア、欧州(Euroland)、イランです。
このブログではこの大きな筋書きに沿って展開される国際情勢に関するニュースを取り上げていきたいと思います。
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