今何が起きているのか
をまとめた優れたサイトはいくつか存在します。例えば、しかし真に問われるべきは、
誰がこの出来事を煽動(先導)してきたか、そしてその目的は何か。
ではないでしょうか。このブログでは、ウクライナの視点ではなく、外部、
特にアメリカの視点から情報を整理していきたいと思います。
推論:
ウクライナ不安定化の背景には、- ドルの基軸通貨性を保持したいアメリカ政府
- シェールガス資源で利益を得たい米・英/蘭系の石油・ガス産業
- ウクライナにNATO軍を配備し、ロシアに脅威を与えたい軍事勢力
という3つの思惑が交錯していると思われる。
それでは、始めましょう。
Q:ウクライナの件と、ドルの基軸通貨性とはどういう関係があるの?
ドルの基軸通貨性に関する投稿を未読の方は、まずそちらをご覧ください。
ここで述べたように、アメリカの強さの根源はドルの基軸通貨性にありました。
そのドルが今や瀕死の不人気な通貨となりつつあります。
ならばアメリカ政府としては、なんとか地位の維持・回復を図る必要があります。
アメリカの衰退に代わって台頭してきているのが、
BRICS(Brasil、Russia、India、China、South Africa)、
そのうち、特に中国とロシアが存在感を増してきています。
アメリカの覇権を維持したい勢力としてはこれら2カ国を叩く必要がある。
今回はそのうちのロシアをターゲットとし、経済面と軍事面から圧力をかけることを狙った動きと思われます。
Q:今回の件はウクライナの話だよね?ロシア経済とは一見関係がなさそうだけど?
すでに日本のメディアなどでも報じられていますが、「エネルギー」が今回の事件を紐解くキーワードです。
少し遠回りですがロシアの貿易の状況から見ていきましょう。
ロシアは、貿易黒字の状態です。
2012年で貿易収支192,296百万ドル、つまり約20兆円の黒字です。
http://www.jetro.go.jp/world/gtir/2013/pdf/2013-ru.pdf
「構成比」列の「燃料・エネルギー製品」が70.3%を占めていることから分かります。
http://www.jetro.go.jp/world/gtir/2013/pdf/2013-ru.pdf
ロシアはエネルギー資源を売り、ドルを得ます。
貿易黒字が続くと手元にたくさんのドルが貯まります。
アメリカからすれば、大量のドルを一気に市場に流されると、それを吸収しきれずにドルの価値が急激に下がるおそれがあり危険です。
ドルの基軸通貨性、ドルの強さがアメリカの命綱なわけですから。
そこで逆に、ロシアの命綱である「エネルギー」の輸出力を削ごう、となるわけです。
Q:なんでウクライナが関係してくるの?
ロシアの主要輸出品目は石油と天然ガスです。
全輸出額(約52兆円)のうち、石油は約3割(約17兆円)、天然ガスは約1割(約6兆円)を占めます。
この稼ぎ頭の1つ、天然ガスは主にパイプラインで輸出相手国に送られます。
下図は建設済/建設予定(実線/破線)の天然ガスパイプラインを示したものです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ロシア・ウクライナガス紛争
下表の主要輸出相手国を見てみると、パイプラインの通り道とよく合致していることがわかります。
上の地図からも分かりますが、天然ガスのパイプラインの多くはウクライナを経由します。
下図はウクライナを通るパイプラインの様子をより詳しく描いたものです。
http://en.ria.ru/infographics/20090609/155206402.html
西ウクライナを経由して欧州に流れるロシアからの天然ガスを、
アメリカや英蘭のエネルギー産業が掘り出すシェールガスの輸出に置き換えてしまうことで、
ロシアへの経済的な圧力を与えつつ、米英蘭のエネルギー産業が儲かる仕組みを構築しようという狙いがあると思われます。
Q:誰がそのような出来事を煽動(先導)してきたの?
筆頭はアメリカのビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)でしょう。 彼女は米国務省国務次官補(欧州・ユーラシア担当)です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ビクトリア・ヌーランド
Q:なんで彼女が煽動(先導)者と言えるの?
彼女は2013年12月13日、US-Ukraine Foundationという団体が企画した式典で、次のように述べました。
「ウクライナ独立の宣言を行った1991年以来、米国は、ウクライナが民主主義制度と市民主導の社会を推進するスキルを獲得することを支援してきました。これはUkraine's European(親欧州・反ロシアのウクライナ人)が必達すべき目標でありました。これらの目的と、その他の目的のために私たちは50億ドル(訳注:約5,000億円)以上の投資を(訳注:米国の税金などを使って)行ってきました。」
“Since the declaration of Ukrainian independence in 1991, the United States supported the Ukrainians in the development of democratic institutions and skills in promoting civil society and a good form of government - all that is necessary to achieve the objectives of Ukraine’s European. We have invested more than 5 billion dollars to help Ukraine to achieve these and other goals. ”
また、ウクライナの親欧州・反ロシアのデモを行った人たちに直接クッキーを配ったりしてます。
http://compliancecampaign.wordpress.com/2014/02/26/lessons-to-be-drawn-from-contradictory-u-s-approaches-to-ukraine-and-bahrain/
Q:ちょっと待った(笑)さっきのスピーチにあった、「その他の目的」って何?
その他の目的の1つは、恐らく、先にも述べた天然ガス利権と思われます。
このことは Youtubeの式典の様子からも伺えます。
少し画質が悪いですが、左右にそれぞれ後援企業の看板と思われるものが見えます。
"ExxonMobil"、"Chevron"と書かれています。
Q:エクソンモービルとシェブロンって、あの石油会社の?
そうです。いずれもロックフェラー財閥に起源を持つスタンダードオイル系です。
- スタンダードオイルニュージャージー → エクソン
- スタンダードオイルニューヨーク → モービル
- スタンダードオイルカリフォルニア → シェブロン
シェブロンのホームページに書かれています。
シェブロンはウクライナのOleska Blockを管轄する政府との独占交渉権を獲得し、160万エーカー(80km平方)の区画での発掘作業と、そこから得られる収益の50%を得る権利を獲得する見込みです。
Chevron successfully bid for the right to exclusively negotiate with the government of Ukraine for the Oleska Block. The company is expected to operate and hold a 50 percent interest in the 1.6 million-acre concession.
http://www.chevron.com/deliveringenergy/naturalgas/shalegas/whereweoperate/
エクソンモービル社やシェブロン社は、ウクライナで法制化されているProduction Sharing Agreement(PSA法)に則り、主に下図の"PSA blocks"でシェールガスなどの天然ガスを採掘する予定です。
1:DTEK社、2:Shell社、3:Chevron社(独占交渉権獲得)、4:ExxonnMobil社、Shell社、OMV社が交渉権保有、5:ENI社、6:Shell社、7:Arawak Energy社(イギリスの石油会社)、8:ENI社
このPSA法、2001年12月6日に成立して以降、12回の改正を行っていますが、そのうち8回をここ3年強で行っています。
- 2010年:2回
- 2011年:3回
- 2012年:2回
- 2013年:1回
The Amendment was drafted through the joint efforts of the Ministry of Ecology, foreign investors (in particular international oil and gas companies interested in PSA projects in Ukraine) and a number of law firms, including the Kyiv office of CMS.http://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=343ae873-1fec-4fd7-b03e-e7664331635a
Q:経済面からの圧力についてはなんとなく分かった。軍事面からの圧力にはどう結びつくの?
(西)ウクライナのNATO加盟、それに伴う(西)ウクライナへの米軍基地配備を狙っていると思われます。
ウクライナは、西半分が親欧州(≒反ロシア)、東部・南部が親ロシア、と言われています。
これは、話される言語からも分かります。
下図は、主要言語がウクライナ語の地域が薄い水色、ロシア語の地域が濃い青色で色分けされています。
今回のデモは親欧州(反ロシア)のKiev(キエフ)から始まりました。
http://www.bloomberg.com/quicktake/unrest-in-ukraine/
また、2010年に行われた政治の投票分布からも分かります。
青が親ロシアのヤヌコヴィッチ氏への投票が過半を占めた地域、
黄が親欧州のティモシェンコ氏への投票が過半を占めた地域です。
http://www.washingtonpost.com/blogs/worldviews/wp/2013/12/09/this-one-map-helps-explain-ukraines-protests/
ここで、ウクライナとロシアの位置関係について改めて振り返ります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ウクライナ
ウクライナがもし東西に分断され、西ウクライナがNATOに加盟する、といったようなシナリオが実現してしまった場合、
NATO同盟を盾に、西ウクライナに米軍基地が創設され、ミサイルが配備される可能性があります。
そうなるとこの近さですので、ロシアにとっては大変な脅威となります。
(冷戦時のキューバへのロシアの核兵器配備と近い状況です。)
Q:なるほど。今回の事件の背景には、エネルギー産業、軍事勢力の思惑があり、それらがアメリカ政府の基軸通貨性を維持したい、という思惑に適うものだということがなんとなく分かったよ。ところで今のウクライナはどんな状況なの?
Kievは、親ロシアのヤヌコヴィッチ大統領が政権から降りたので、当初のデモの目的は達成されたはずですが、
ドイツのナチス党の流れを組む、Right Sector、Svoboda(スヴォボダ、「自由」)といった勢力が、暴力で権力を握りつつあります。
(参考)http://matome.naver.jp/odai/2139338815267519601
彼らが東・南ウクライナにまで進出すると、ロシアが親ロシアのウクライナ人保護のため武力行使をする可能性があります。
その武力行使を欧米は非難し、冷戦時に似た対立構造で、大きな戦争につながってしまう可能性があります。
欧米日のメディアではプーチン大統領を悪者に描く傾向があるようですが、今回のウクライナ事件の端緒は、アメリカによる資金提供から始まったと思われる、という点を忘れないようにしましょう。
去る2014年3月6日、プーチン大統領がウクライナ情勢に関する記者団からの質疑応答に対応しました。1時間近い時間、大統領が直に、1つ1つの質問に丁寧に答えるということはあまりないと思います。
トランスクリプトはこちらに掲載されています。
英語が得意な方は、少しでも良いのでプーチン大統領の回答の仕方を読んでみてください。
彼の実務能力の高さを伺わせます。
Q:まだ安定化するには少し時間がかかりそうなんだね。
そうです。ウクライナ情勢については引き続き観察が必要となりそうです。
以上
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