Q:「覇権」って何?
A:「覇権」とは、
- 意味:国家間において、主位に立つ国家が従位の国家を、直接的な軍事力は用いず、むしろ隠然とした権力の行使によって統制する、間接的な統治形態
Source:http://en.wikipedia.org/wiki/Hegemony
- 英語:hegemony(イギリス読み:ヘゲモニー、アメリカ読み:ヘジェモニー)
この定義に従いますと、
「アメリカ覇権」とは、
主位に立つアメリカが、従位の国家であるイギリス、日本、ドイツ・フランスなど欧州各国、BRICS等の国家を、直接的な軍事力は用いず、むしろ隠然とした権力の行使によって統制する間接的な統治形態
となります。冷戦後の世界は強弱の差はあれど、世界全体がアメリカ覇権の影響下に置かれてきたといえます。
Q:「権力」って何?
A:「権力」とは、
人々の振る舞いに影響を与えたり、統制したりできる能力
のことです。Source:http://en.wikipedia.org/wiki/Power_(philosophy)この定義に従いますと、
アメリカが従位の国々に対して用いる「隠然とした、人々の振る舞いに影響を与えたり、統制したりできる能力」
となります。Q:「権力」の種類にはどんなものがあるの?
A:
以下の要素などから成り立つと考えられます。- カネ:国家財政への干渉
- カネ:通貨価値操作
- カネ・モノ:商品市場操作
- カネ・モノ:貿易への干渉
- ヒト・情報:情報操作(マスメディア)
- ヒト・情報:情報傍受(盗聴など)
Q:「権力」はどんな風に使われるの?
A:
以下に具体例を挙げます。- カネ:国家財政への干渉
→IMFはウクライナへの財政援助を行う条件として、財政健全化のため年金支給額を半分にするよう要求案を提出。 - カネ:通貨価値操作
→インド・ルピーの通貨価値を押し下げ、輸入物価を上昇させ、経済を困窮させる。 - カネ・モノ:商品市場操作
→ 備蓄石油の市場放出により価格を下げ、石油輸出に依存するロシアに圧力を加える。 - カネ・モノ:貿易への干渉
→ WTOの枠組みから中国を排除し、経済成長を阻害する。 - ヒト・情報:情報操作(マスメディア)
→ ウクライナ危機でロシアを悪者に仕立てる。 - ヒト・情報:情報傍受(盗聴など)
→ ドイツ・メルケル首相の通話内容を傍受し、外交を有利に進める。
覇権の主位に立つアメリカは、政治・経済面で成長し、力をつけてくる従位の国々に対し、これらの権力を様々な形で行使することで、彼らの成長を阻害し、自らの覇権(間接的な統治形態)を維持してきたのです。
そして、これまでそういったことができた背景の根幹には、ドルが基軸通貨性を有していたことがあります。
それは、「カネ」(=ドル)をつかった1.〜4.に挙げたような権力の行使は、従位の国がドルの影響下にあって初めて効力を持つからです。
Q:ウクライナ危機とアメリカ覇権との関係は?
A:
先のクリミア併合についてまとめた投稿で述べた通り、アメリカやイギリス、ドイツなどの欧州主要国(米欧諸国)は、ロシアに対して経済制裁を行っています。現時点(4月19日)におけるアメリカのロシアに対する経済制裁の内容は以下の2点です。
- 20人のロシア高官たちに対する、アメリカへの渡航禁止とアメリカ国内の資産凍結措置
- ロシア銀行(Russiya Bank)が行う決済の拒否
一見すると、今回のウクライナ危機もアメリカ覇権における、ロシアに対する経済制裁という形での権力行使のように見えます。
確かに、ロシアがこの状況を乗り越えられなかった場合には、冷戦状態の復活、あるいは戦争の勃発などにより、ロシアの成長は著しく阻害もしくは減退することでしょう。
しかし、もしロシアがこの状況を乗り越えられた場合はどうなるでしょうか。
ロシアが経済制裁に対抗する努力をする結果、ロシアとロシアに協力的な国々はアメリカ覇権(アメリカによる間接的な統治形態)から離脱していく可能性があります。
ここに、ウクライナ危機とロシアのアメリカ覇権からの離脱との関係性を見出しています。
Q:ロシアは経済制裁に対してどういう行動を取っているの?
A:
米欧主導の枠組みの外に出て、自国の経済活動が影響を受けないよう、自国中心もしくは中国やイランなどを巻き込んだ枠組みを作ろうとしています。
この一連のロシアの動きが本投稿の仮説の基礎となっています。
Q:ロシアが作ろうとしている枠組みにはどんなものがあるの?
A:
ウクライナ危機に関するものとして、以下3つの枠組みが考えられます。- エネルギー資源貿易の枠組み
- クレジットカードの枠組み
- マスメディアの枠組み
- インターネットを中心とする通信の枠組み
<エネルギー資源貿易の枠組みについて>
ロシアは米欧諸国に対抗するため、中国・イランと協調的な関係をこれまでに築いてきています。Source:http://www.huffingtonpost.com/majid-rafizadeh/ukraine-crisis-bolstering_b_5045450.html特に中国は、ロシアの輸出相手国第二位であり、ロシアは中国に石油・天然ガスを輸出しています。
ロシア国営企業のGazpromは、2018年から38億立方メートルの天然ガスを、中国とロシアをつなぐ初めてのパイプラインを通じて送りたいと考えています。
この契約は「(2014年5月に)プーチン大統領が中国を訪問したときに、(契約締結に向けた)交渉が進められると予想するのが論理的に考えて自然である」、とGazprom関係者が述べています。
Source:http://www.reuters.com/article/2014/03/21/us-ukraine-crisis-russia-insight-idUSBREA2K07S20140321
以下、上述の内容に関連する部分を引用しておきます。
State-owned Russian gas firm Gazprom hopes to pump 38 billion cubic meters (bcm) of natural gas per year to China from 2018 via the first pipeline between the world's largest producer of conventional gas to the largest consumer.(引用終わり)
"May is in our plans," a Gazprom spokesman said, when asked about the timing of an agreement.
A company source said: "It would be logical to expect the deal during Putin's visit to China."
*注:この写真は2013年3月に中国の習近平国家主席がロシアを訪問したときの写真で
今回の件とは直接関係ありません。イメージ写真として掲載しました。
今回の件とは直接関係ありません。イメージ写真として掲載しました。
当然そこではドルを使った決済は行われず、ロシア・ルーブルもしくは中国人民元を利用した決済が行われる可能性があります。
これは、ただでさえ弱りつつある、アメリカ覇権の根幹にあるドルの基軸通貨性を"さらに"弱めることにつながります。
ロシアは、エネルギー貿易に関する追加の制裁が行われるかもしれないことを口実に、堂々とこういった活動を進めることができます。
つまり、今回のウクライナ危機から発生した経済制裁は、ロシアがアメリカ覇権から離脱するための口実を与えている、とも捉えられるのです。
<クレジットカードの枠組みについて>
経済制裁の1つである「ロシア銀行に対する制裁」が、ロシア市民の経済活動に与えている重要な影響として、ロシア銀行を経由するVISA、Mastecardの決済が行えない
ということがあります。Source:http://www.forbes.com/sites/kenrapoza/2014/03/21/russian-banks-feeling-pain-of-u-s-sanctions/現在、ロシアのクレジットカード市場でVISAとMastercardのシェアは90%前後であるため、市民の日常生活への影響は大きいと思われます。
ロシアはこれに対抗する措置として、RussiaCardの導入を検討しています。
これは、日本のJCB、中国の銀聯カード(UnionPay bank Card)に類するものです。
Source:http://www.csmonitor.com/World/Europe/2014/0328/A-new-Russian-bank-card-Priceless-for-the-Kremlin
これもアメリカ覇権からの離脱を図る動きの1つと捉えることができます。
<マスメディアの枠組みについて>
先のクリミア併合についてまとめた投稿の編集後記でも述べましたが、ウクライナ危機は「プロパガンダ戦争」の様相を呈しています。「プロパガンダ」とは「特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った、宣伝行為」のことです。
米欧諸国のメディアは徹底して、ロシアのウクライナ併合を認めない論調を展開しています。
プーチン大統領をヒトラーに例えるような論調も見られます。
対して、ロシア側の視点で情報を発信していたのがRussia Today(RT)でした。
英語での発信がなされているため、本ブログでの一連の投稿においても、米欧諸国の視点だけに偏ることなく、両者の主張を取り入れながら書き進めることができました。
一方的に悪者にされ、自国を戦場とされてしまったイラク、アフガニスタン、シリア、リビアといった国と比べて、ロシアの情報発信力は一線を画しているといえるでしょう。
以上見てきた3つの取り組みによって、ロシアは先に挙げたアメリカ覇権の権力のうち、以下3つの手段からの影響を減少させることができます。
2. カネ:通貨価値操作
4. カネ・モノ:貿易への干渉
5. ヒト・情報:情報操作(マスメディア)
<インターネットを中心とする通信の枠組みについて>
ロシアはアメリカのNSA(*)問題について暴露したEdward Snowden氏を亡命者としてかくまっています。(*:National Security Agency、アメリカ国家安全保障局。ドイツのメルケル首相を筆頭とする世界要人を含め、世界中で交わされる電話の交信記録を傍受していることが発覚し問題に。)
この点については、別の観点で書くべきことがあるので、"WhistleBlowers〜内部告発者たち〜"といったようなタイトルで別途投稿したいと考えています。
Q:アメリカはなんで自国の覇権を弱めかねない制裁を行っているの?
A:
今回の仮説が間違っていなかった場合、確かにアメリカは自滅につながるような動きを押し進めていることになります。この一連の活動の推進者が何を考えているのか、正直分かりません。
ただ、アメリカの政策決定を行う中枢にいる人達は、本当に賢く、唸らせるほどの戦略を毎回練ってくるので、当然そこには何か深い狙いがあると考えるべきです。
私は楽観主義者なので、以下のような希望的な推測も可能ではないかと考えています。
- アメリカに軍事力が極度に集中してしまったことで、戦争・内戦に抑止力が働きにくくなってしまった。(直近の例ではイラク・アフガニスタン・シリア・リビアなど)
- そのことを反省し、アメリカの軍事力を徐々に削ぎつつ、ロシアや中国などを経済・政治・軍事的に成長させて戦争の抑止力とする。
- こういった構想の推進者であるから、オバマ大統領はまだ何もしていない段階でノーベル平和賞をもらえた??
最後までお読みいただきありがとうございます!!
もしよろしければ「共有」からfacebookなどにシェアしていただけると嬉しいです。
0 件のコメント:
コメントを投稿